Making of Astrolabe Papercraft

アストロラーベについて

--構造と使い方、ペーパークラフト--

■Astrolabe -- Scientific Instruments of the Past


↑アストロラーベと同時代の航海グッズ。

 天文アストロラーベは、航海用品に分類されることがあります。海外で調べるならマリタイムミュージアムがおすすめです。

●左上・アストロラーベ1
 プラネスフェリック・アストロラーベ。私たちが普通アストロラーベと呼んでいるのものです。写真のものは簡易型アストロラーベの復刻版。航海アストロラーベとともに船に積んでありました。

●右上・謎の円盤(ノクターナル?)
 ノクターナルは、北天の北極星周辺の星の位置から、時刻を求める円盤です(後述)。これはノクターナルによく似ているのですが、季節のゼロ調整用の円盤がなく、使えません。謎の機器です。

●左下・日時計つきコンパス
 方位磁石に日時計がついている、ポータブルの航海用品です。南の方角に日時計を合わせればだいたいの時刻が分かります。
 船には、どんなに船がかしいでも水平が出せる大型のコンパスが積んでありましたが、色々なことが起こる海上では船員にとって携帯型は重要なものだったと思われます。このコンパスは復刻ものですが磁石が大きく見やすいです。隣にある方位版のようなものはこれのフタです。

●右下・船用の望遠鏡
 コンパスに海図、時計、六分儀があっても、航海で最も確実な運行上の目印は、遠くにみえる陸地や灯台です。さらに海賊船を、むこうより早く発見しなければなりません。4段式の船用の望遠鏡は、船の展望台から遠方を見るためのもので、 18-19世紀にヨーロッパ各国で無数といっていいほど作られました。
 いずれも正立像が見られるガリレオ式です。ターゲットは水平線上と決まっているので視野はそれほど必要ないのです。


■アストロラーベとは?

 
アストロラーベは、中世〜19世紀にヨーロッパやイスラム圏で使われた天文計算儀(&観測器)です。
  大きく航海用と天文用、そして四分儀の3タイプがあります。ここで扱うのは天文アストロラーベです。直径10-30cmくらいの真鍮の円盤数枚がとじられた、平たい天体用の計算装置です。(まれに天球儀のような3次元型のアストロラーベもあります)

 天文アストロラーベはひとくちでいうと、ある場所における、好きな日の太陽・明るい恒星、黄道12宮の出没や高度方位を計算する、主に占星術師のための計算機、となります。(月、惑星は計算できません)

 少なくとも10世紀にはイスラムで誕生して使われており、10世紀の有名な天文学者アル・スーフィはアストロラーベの使い方を1000種類も書いた著作を残しました。日の出日の入り、一等星の見える高さなど、イスラム関係の行事に役立っていたようです。その後、数世紀にわたりイスラムで発展し、ルネサンスの頃ヨーロッパに伝わりました。
 ヨーロッパで製造された最古のアストロラーベは15世紀リスボンのものと言われていますが、 14世紀のイギリスの作家チョーサーがアストロラーベの使い方を書いているので、実際はもう少し前からつくられていたと想像されます。
 ヨーロッパでは星占いが流行っていたこともあってすぐに広まり、アストロラーベはほぼ発明された時の形のまま、イスラム・ヨーロッパ双方の占星術師・天文学者・航海関係者らに、19世紀ごろまで長く使われました。

 アストロラーベは、今まではよく航海アストロラーベと混同されて「天体の高度を測る機具」とされたり、「昔の星座早見盤のようなもの」と紹介されたりしていました。そういった機能もあることはあるのですが、主要な用途ではありません。
 太陽や天体の高さは、裏面で、360度目盛りとアリダードという両端に穴のあいた棒で測定できます。しかし天体の高さを測るだけなら、表はいりません。
 また、アストロラーベは、星座早見盤のような実際に見える形の星座ではなく、東西に反転した「裏返し」の星座を使っています。星座早見盤とちがって北天を中心としていて、南天は非常にみにくい、というより投影できません。

 星座早見盤は、全天の星座をそのまま丸く描いただけなので、ゆがんではいますが南天の地平線の下まで星座がわかります。しかし、アストロラーベの投影方法は球を平らにのばすような方法なので、黄道の南はしくらいが限界で、横浜の南の地平線近くの星座を入れようとすると同縮尺で何倍も大きい円になってしまいます。
 アストロラーベで星座は探せません。アルデバランやベガなどの明るい星の高度や方位がわかるだけです。

 占星術師たちがほしい情報は、「○年×月△日の*時に、太陽は黄道12宮のどこにいて、東の地平線には何座宮がのぼろうとしていたのか」などです。答えは、アストロラーベを回して目盛りをよむとわかるのですが、アストロラーベの素晴らしい点はその結果が視覚的に表現されていることです。天文学者でも、天体の位置関係は数字だけではぴんとこず、図をかいて調べますからね。
 こういった星占いのこと以外にも、色々な天文計算ができる、大変よくできた装置でした。


↑近年の美術オークションで落札されたアストロラーベの一部。

■現存するアストロラーベ

 アストロラーベの魅力は、見た目の美しさ、そして構造のシンプルさではないでしょうか。1つあれば、それを参考にしてコピーも作れるくらいのものなので、多くの職人が腕をふるっていて、ヨーロッパでは様々な町の博物館で陳列されているアストロラーベをみることができます。

 英国マリタイムミュージアムやオックスフォード大学のように数十個以上もっている博物館もあり、また個人収集家、個人の骨董店に多数流れており、今も時々、ヨーロッパの骨董・美術品オークションに本物が登場しています。
 ヨーロッパの大きいオークションだけでも、ざっと調べて過去5年で5-60個ほどのアストロラーベが出されていました。これらを追跡すると、少なくとも1000個以上は、本物が世界各地(特に個人のコレクション)に残っていると思われます。

 各都市の海事博物館のアストロラーベや、オークションに登場するものを調べていると、まったく同じデザインのものが見つからないことに気がつきます。細部まで丁寧に装飾されているものが多く、作り手は美術品としてこだわって作っていたのでしょう。
 ビクトリア朝時代のものはリートが唐草模様になっているし、中東やインドで使われたものは、黄道12宮も目盛りもアラビア語で書かれていて、異国情緒あふれています。

 さてこういった本物のアストロラーベのお値段は...?ロンドンのサザビーズ、パリのクリスティーズ等では、安めの品で数十万円、多くは数百万〜一千万円ほどで落札されています。 Yahoo!やeBayなどの庶民派ネットオークションに慣れた私たちには、ビックリするお値段ですが、骨董美術としては普通の価格のようです。
 本物はちょっと手が出ませんので、ここでは現代のレプリカを使って解説しています。



↑アストロラーベ2.本物のアストロラーベと同じ構成のレプリカ。
マーテルが本体で、それに各円盤をポストというくいで止めます。ホースとはポストに差し込んで止めるピンです。


↑アストロラーベ3、本物と同じ構成のレプリカです。


↑この項の一番上の写真のものを組み上げたところ。表です。このアストロラーベは、目盛りが金属面を彫って描かれているので、写真では読み取りにくいです。


↑裏面。アンティーク仕上げなので年代ものにみえますが最近のものです。大きさはジャストCDサイズ。


■アストロラーベの構造と部品名

 アストロラーベの部品は、どうもよい邦語訳がありません。ここでは、ラテン語と思われる原語そのままで表記します。

●マーテル(Mater)
 アストロラーベのオモテ面は、円周にぐるりと24時間の時刻目盛と、360度の角度目盛りがふられたマーテルという土台が一番下にきます。外側以外は通常、何も書かれていません。

●ティムパン(Tympan)
 マーテルの上に、その場所の高度方位の座表線が入ったティムパンという円盤がのります。ティムパンは、その土地の緯度ごとに違うので、入れ替えて使います。

●リート(Rete)
 さらにティムパンの上に、星図を表すリートという、あちこちくりぬかれた円番がのります。リートには、黄道12宮のほか、シリウスやアルクトゥールスなどの目立つ恒星も描かれています。
 しかし、このリートの星を、南を下にしてよく見てください。
 オリオン座はベテルギウスが右上、リゲルが左下にきます。そしてオリオン座の右側、つまり西にシリウスがきます。普通に夜空をみた様子と、東西にひっくりかえっているのです。
 アストロラーベの特徴の1つは、星空が東西反転で表現されていることです。(ティムパンもよくみると、実際の夜空と地平線の東西がひっくりかえってます。)実際の星空と照らしあわさず、あくまで出没計算機と思えば、何とか慣れてきます。古い西洋星図はこのように東西反転で描いているものも多く、 19世紀以前のヨーロッパの天文関係者にとっては特に問題なかったようです。
 さて、リートの装飾や作り方はとても種類が多く、アストロラーベの美術品としての価値を高めています。数個の星を記載したシンプルなものから、100近い恒星を描いたサイエンス性の高いものまで、色々あります。

●ルール(Rule)
 以上で、アストロラーベ表面としての機能ははたせますが、さらにリートの上に、太陽の位置を固定するためのルール(定規)がついているものが多いです。

●裏面
 裏面は、表面のマーテルの裏が土台になります。裏の円周には、360度目盛りと黄道12宮、そして何月何日という、1年の日付目盛りが並んでいます。
 日付の目盛りから、調べたい日を探し、その部分の黄経目盛りをよめば、それが太陽の黄経、つまり黄道上の太陽の位置が出ます。

 裏面の中央部分は、上が太陽高度から時刻を導く曲線、下半分は三角関数計算用のグリッドが描かれることが多いですが、特に何もない場合もあります。

●アリダード(Alidade)
 裏面にリートのようなものはなく、アリダードという、直径分の長さの定規のような棒がついているだけです。アリダードは上下が折れ曲がり、そこに丸い穴があいています。それで、アストロラーベをひもでつりさげ、陰を利用し太陽の高度を測定するのです。方法は、アリダードの上下の先にあいた穴の影が地面に投影されるように、アリダードを回し、固定します。そのアリダードの傾きが太陽の高度です。

 ところが星などの天体は、太陽のように影ができません。影ができないものは、アストロラーベを眼の高さにつって、アリダードのへりにそってちょうど視線の延長上にその星が見えるところまでアリダードを回して測定します。
 ここでは、アストロラーベは手でにぎって観測してはいけません。必ずヒモで吊り下げて下さい。ぶら下げることで水平を出しているのです。

●ポストとホース(Post,Horse)
 各部品を止め、回転させる中央のくいがポスト、ばらけないようにポストに差し込んで止めるピンがホースです。このポストがつまり北極星なのです。ホースには、馬の顔が描かれているものもあります。


■アストロラーベの使い方の例
←マーテルとティムパンを重ねた図

←リートの図


↑マーテルにティムパン、リートを重ねたオモテ面の図。
よくわからない方は、1つ前のマーテルとティムパンだけの図とリートだけの図を、まずごらんください。


↑オモテ面の実物はこんな感じ。簡易型アストロラーベです。


↑同じくオモテ面。
本物と同じ構成のアストロラーベのものですが、10cmと小さいものなので読み取りに拡大鏡が必要....。


↑裏面の説明です。黄経目盛りが反時計まわりになっています。


↑ウラ面の実物。簡易型の方。


↑本格派の方。


■アストロラーベの使い方

★目盛り:表と裏は、まったく別の物と思おう

・アストロラーベの表側と裏側は、ともに24時間の目盛り、360度の目盛り、黄道12宮が描かれてあるので、一見似ています。しかし、まったく別のものと、認識しましょう。
・おおざっぱに言って、おもて面は、地面と夜空(ただし東西が反転)、うら面は1年分の太陽の位置表です。
・表の中心は北極星ですが、裏は中心はあんまり関係ありません。

・おもて面は、リートとマーテルに大きく分かれます。
・最も外側のマーテルに描かれている、時計回りに増えていく24時間の目盛りは、1日の時刻を表しています。どの国もおおむね、太陽が真南にきた時が昼の0時、その12時間前が午前0時というシステムですので、地方の時刻と思ってよいです。世界時ではありません。
・マーテルの内側のリートの縁にもまた24時間表記があります。ところが、リートの24時間表記は、反時計まわりに増えていきます。マーテルと逆なのですが、これは星図の赤経を表しています。

・うら面は、外側に、向って右からはじまって反時計まわりに増える360度(物によっては0〜24時)の目盛りがふってあります。これは太陽黄経をあらわしています。(太陽黄経は24時間表記ではなく、360度表記にするのが通例です。)その内側か外側に、1月1日から12月31日までの日付がふってある、日付ダイヤルがあります。調べたい日の太陽の黄経をそれで調べるのです。

☆太陽黄経と太陽赤経
・うら面で、調べたい日時の太陽黄経を調べますが、おもて面の星図は赤経座標です。日づけからいきなり太陽赤経を求めれば楽なのではないか?と思われるかもしれません。しかし、それはコンピュータがない時代、かなりめんどうなことだったのです。
・太陽の通り道、黄道は、赤道に対し23.5度ほど傾いています。太陽は赤道ではなく黄道上をほぼ同じスピードで移動しています。太陽黄経は日付に対しほぼ等間隔で増えていきますが、赤経は季節によって大きく増えたりちょっとだけ増えたりと同じスピードでは増加しないのです。
・太陽黄経の目盛りダイヤルは簡単に作れますが、太陽赤経ダイヤルを作ることは至難の業だったので、とりあえず太陽黄経を求めていると思われます。
・おもて面のリートの黄道リングも、よく見ると12宮の境界線が赤経のラインから少しづれている部分があるのがわかります。

演習1.5月5日の太陽は何時に上るか、調べてみる
・裏面の円周の内側の日付目盛りから、5月5日を選びます。
・その5月5日の位置の、黄経目盛り(360度の目盛)を読みます。だいたい44度ですね。これが5月5日の太陽の黄経です。
・ついでに5月5日の位置の黄道12宮を見ます。おうし座宮ですね。この日誕生日のひとはおうし座生まれとわかります。
・さらについでに、5月5日がおひつじ座宮の区間のどの辺かを見ます。みたとこ、区間中の真ん中くらいですね。アストロラーベの目盛りは一癖あるので、これが重要なんです。
・次に、表にして、リートの内側に、中心がずれた円で描かれている黄道リングを見ます。おうし座宮を探して、その中の黄経44度の位置を探します。そこが5月5日の太陽の位置です。
・しかし、リートの黄道リング上の黄経44度は、なかなかみつからないと思います。非常にサイズが小さいので数字が読み取れないのです。またモノによっては黄経目盛りが無いリートもあります。そこで、おひつじ座宮をさがし、その真ん中に付近を44度、太陽の位置とします。
・そこに○印を描けばわかりやすいですが、そうもいかないので、「5月5日の太陽の位置」にルールをまわしてもってきて固定します。このルールが太陽の位置の目印です。
・ルールを固定した状態でリートを回し、東の地平線に、「5月5日の太陽の位置」がぶつかったところで止めます。 東西が星座早見盤と逆なので、東は向かって左です。
・ルールの先がさしている、一番外側の24時間目盛りを読みます。その時間が、日の出の時刻になります。4時50分くらいでしょうか。
・西の地平線に、5月5日の位置の黄道リングがぶつかった時のルールの先が、日の入り時刻となります。

・アストロラーベで使う時刻は、太陽が真南にきた時を12時とする、日本標準時などの、場所ごとの個別の時刻です。世界時ではありません。

演習2.自分の誕生時刻の上昇宮を調べてみる
・裏面から、誕生日の12宮や太陽黄経を調べます。
・表面のリートの中の黄道リングをみて、誕生日の太陽の位置を決め、そこにルールをもってきて固定します。
・リートを回し、一番外側の24時間目盛りをみて、ルールの先端が自分の誕生時刻にくるようにして止めます。
・そこで、東の地平線とクロスしている黄道リング上の星座宮が、上昇宮です。

演習3.シリウスと太陽が同時にのぼる日時を調べてみる
・表面のリート上にあるシリウスを探します。
・リートを回し、シリウスが東の地平線にきたところで、止めます。
・その位置で、黄道リングが東の地平線を横切っている場所を調べ、そこの黄経を読みます。
・裏面の円周にある目盛りで、今調べた黄経に対応する日付を読みます。その日が、太陽とシリウスが同時にのぼる日です。
・この計算だけは、ルール(オモテ面の棒のこと)は使わないのがミソ。

演習4.太陽の高度から、現在の時刻を調べてみる
・裏面のアリダードを使い、太陽の高度を調べます。
・裏面から、その日の太陽黄経を調べます。
・2,3番と同様に、表面のリートの黄道リング上の太陽の位置にルールを固定します。
・ティムパンの高度方位目盛りを見ながら、リートを回していき、黄道リング上の太陽が、先ほど測定した高度の目盛りの場所にきたところで止めます。
・その位置のルールの先がさしている、一番外側の時刻目盛りが、おおまかな現在時刻です。なお、同じ高度では2か所ぶつかりますが、太陽の方位をみて、午後か午前かを推測して、どちらかの時刻を採用しましょう。

☆実際のところ、この方法は、リートの黄道リングに隠れて、ティムパンの高度方位目盛りがめちゃくちゃ見にくいので、よい使い方とはいえません。

演習5.三角関数コサイン38度を計算する
・裏面の下半分のシャドウスクエアという部分を使います。シャドウスクエアは正方形が2つくっついた形です。正方形の一辺の長さを「A」とします。
・水平を0度、垂直を90度として、アリダードを回して38度のところで止めます。
・シャドウスクエアとアリダードがぶつかるところに印をつけ、アリダード中央からの長さを測り「B」とします。(アリダードに目盛りがついている場合が多いです)
・A÷Bがコサイン38度です。0.85くらいでしょうか。<
・天体軌道論で、三角関数は山のようにでてくるので、シャドウスクエアはとても便利なものだったと思います。
・サイン、コサインだけでなく、タンジェントもシャドウスクエアの短辺上の長さを図るだけで簡単に計算できます。

演習6.その他の使い方
・遠方の建物の高さを測る。建物の上から下までの角度と、建物までの距離がわかれば計算できます。
・地方恒星時を求める。地方恒星時とは、春分点の時角(真南から何度西に離れているか)であります。昼間は太陽の位置を調べてリートをそこまで回し、おひつじ座宮の一番前との真南との角度を求める。夜はもっと簡単で、南中している明るい星を調べ、それと、リート上でその星を探し、おひつじ座宮の一番前との角度を調べればよい。
・etc.他はまだ調査中。

演習?.月や惑星の位置を計算する....
計算できません。従って、アストロラーベ単独ではホロスコープは作れないのです。

☆13世紀、カスティリア王アルフォンソ十世がアルフォンソ星表というたいへん詳しい天体の位置表を作りました。この有名な星表は、17世紀のケプラーが「間違いが多い」と怒っていたので、そうとう長く広く使われたようです。
 ルネサンスの占星術師は、こういった惑星表をみながら月や5惑星の位置をアストロラーベに書き込んでは消し...ホロスコープを作った...のでしょうか?




↑ノクターナル。これは小さいのでぶら下げて使います。

↑吊り下げ式の簡易日時計。

↑吊り下げ式日時計の変わったタイプ


↑一般的な携帯用日時計。


■アストロラーベと似てる別の科学機器・ノクターナル

 アストロラーベが使われていた時代、ノクターナルという、北極星周辺の星の位置から時刻を調べる円盤がありました。夜専門の時計です。
 ノクターナルを北の空にかざし、こぐま座の2等星コカブを時計の短針にみたて、北極星に対しどの位置にいるかで時刻をみたようです。

・しかし、北極星をまわる星の位置は、同じ時刻でも、年周運動のため、季節によってまったく異なります。たとえばコカブがある時刻に北極星の真上に見えていても、半年後の同じ時刻には、正反対の場所にみえるのです。
 そのため、ノクターナルは、計算する日付によって、時計の文字盤にあたる時刻ダイヤルの「ゼロの位置」を変えて、ゼロ調整して使うものでした。このノクターナルは、外側の日付リングで観測日の日付を探し、そこに内側リングのゼロ点をもってきてスタンバイ。北の空にむかってつるし、コカブの位置に大きな「針」をもってきます。その針のさす内側リングの時刻目盛りが現在の時刻となります。


★その他のアストロラーベの時代(15-19世紀)の天文機器
 天文機器はルネッサンス〜大航海時代に航海術や科学の進歩とともに発展し、日時計や望遠鏡など船乗り用や一般人用のものも作られるようになりました。

・吊り下げ式リング型日時計(吊り下げて使うもので、中央部分の小さい穴を通した太陽光をリングにあてて時刻を読み取る。穴の位置を季節ごとに調整できるので1年中いつでも使えて、コンパスなしで時刻がわかるすぐれもの。水平に物を置きにくい船の上で使ったらしい。左写真のタイプは、ある緯度でしか使えない。)

・変わったリング型日時計(吊り下げるタイプだが一見指輪にみえるコンパクトなもの。3連リングの真ん中のリングが動き、季節により太陽光を通す穴の位置を変える。緯度は固定で、普通のリング式日時計に比べて時刻がおおざっぱにしかわからない。)

・携帯用日時計(方位磁石がついていて、ノーモン部分が観測地の緯度にあわせて角度を変えられるものも多かった。たくさん残存しているので、一般人用として作られていたと思われる。)

・月齢計算機(グレゴリオ暦用。年初の月齢でアジャストし、月ごとに目盛りを合わすことで1年分の月齢を計算する。)

・惑星運行儀(オーラリィと呼ばれるもの。太陽月地球だけ、7惑星あるものなど色々つくられました。)

・恒星時時計(自動で回るアストロラーベがついている時計。ヨーロッパ各国で時計師の知恵比べのように作られました。自動にするには24時間ではなく、23時間 56分で回さないと実際と合わなくなります。24時間の普通の時計の機能も同時にあり、ゼンマイ式、歯車だけで作られていて、いずれも見事なものです。)
 他に惑星運行時計など特殊な文字盤がついている時計も多数作られました。



↑月例潮汐カレンダー。


↑ポーラーモノクル。


↑謎の円盤。


■よくわからない天文グッズ

 古めの天文グッズ(レプリカ)をゆったりめに集めてます。ネットで購入したり、オークションで落札したり...それらの天文グッズの中には、使い方がわからないものも少なくありません。

 ←17-18世紀に使われたとされる月例&潮汐カレンダーのレプリカ。ヘミスフェリウム社の市販品。表面が潮汐計算ダイヤル、裏面が月例計算ダイヤル。月例計算機は、普通のタイプで、年初のアジャスト月齢が19年分書かれていてそれに年初を合わせて読み取るもの。現代風にリメイクされていて西暦2000年が中心年。しかし、潮汐計算の方は、付属の説明書を読んでも使用方法がわからない。

 ←ポーラーモノクル。ポーラーモノクルという名前で出品されていた。説明書はなく、アストロラーベ風の透かし彫りの金属円盤に取っ手がついてるペンダントのようなもので、まったくの謎グッズ。かわいいからいいか。

 ←謎の円盤。ノクターナルのレプリカと思って購入したが、よく見たら時刻目盛りはないし、そもそも季節のアジャストダイヤルがないのでまったく違う品と判明した。しかし何に使うのか、誰に聞いてもわからなかった謎の品。「文鎮では?」という...

 他に、頭の部分に方位磁石が、胴体部分にお酒をいれておく小瓶がしこんである仕込み杖とかもあります。



■アストロラーベを作ってみよう
アストロラーベの型紙


■アストロラーベのペーパークラフトを作ろう


★用意するもの
・印刷用の紙、丈夫で大きい厚紙、はさみ、ラジオペンチ、のり、がびょう、左の型紙

★作り方
1.はさみやがびょうなど、自分で責任をもって注意してとり扱ってください。
2.左の横に長い型紙を3つに切り、それぞれをA4より大きい紙3枚に拡大して印刷し、のりでボール紙にはります。(紙は大きければ大きいほど作りやすいです)
3.乾いたら、はさみで型紙をはったボール紙を切り抜きます。
4.本体を裏表にはりあわせ、それにリートやルール、アリダードを画鋲でとめます。
5.がびょうの先が危ないので、ペンチでまげて、完成。

★この型紙について
・アリダードに天体の高度観測用の穴がない等、本物のアストロラーベとは少し異なっています。
・表面のマーテル&ティムパンは、北緯35.4度の緯度の場所用に計算したものです。それ以外の緯度の町、特に日本の北と南では若干太陽の出没時刻がずれるかもしれません。
・あくまでこれは構造を理解する手助けのペーパークラフトで、実際に使うものではありませんデス。


★旧バージョンの型紙について

 横浜こども科学館(現はまぎんこども宇宙科学館)のHPにて、アストロラーベの別の型紙を公開させていただいてました。1997-2007年までの旧バージョン1はコンピュータの出力そのまんまというドット絵みたいなのでした。当時VisualBasicをよく使っていたので、プログラムを自前で組んで出力させたものです。しかしこれは、私がアストロラーベが星座早見と東西逆の製図=裏返しの星図を使っていると知らないで作ってしまったので、実物と違う品になっていました。また、使いやすくしようとリートに年月日目盛り、マーテルに時刻目盛をいれていたので、わかりやすいんですが、本物のアストロラーベとはずいぶん違った雰囲気で、さらに私が計算まちがいをして年月日目盛を15日くらいまちがえたもので、実際の星空とは1時間くらいまちがって表示されるという、かなりの欠陥品になってしまいました。昔のをダウンロードされた方がおられましたら、ほんとに申しわけありませんでした。

 そして2008-2010年公開の旧バージョン2は、本物と同じ裏返しの星図になっていくらかよくなりましたが、やはりドット絵風でした。

 このページにある新バージョンは、裏表とも、本物と同じ形式の目盛がふってあるので、わかりにくいですが、本物っぽくはなっております。また旧バージョンは、太陽高度から時刻を逆算できる時刻曲線(緯度35度のもの)を裏面に表示していましたが、プロットしなおす時間がなかったので今回ははぶいてあります。本物のアストロラーベは裏面に太陽高度-時刻曲線がついているものもありますが、それは赤道上でしか使えないタイプでしたので、装飾の一種かなあと思います。

イラク古代文化研究所のアストロラーベペーパークラフト  実は、2008年頃、古代オリエント文明の研究で知られる国士館大学のイラク古代文化研究所で、旧バージョンの型紙を使った「アストロラーベを作ってみよう」という催しがあり、美しく印刷されたアストロラーベペーパークラフトキットを作っていただきました。とてもおしゃれなもので感謝感激でした。ここの型紙とは比べ物にならないくらい美しくできていましたが、旧バージョン1の欠陥があるので、正立星図の上に実際の星空と1時間ずれて表示されちゃいマス。この欠陥はひたすら私のせいで、これまた本当に申しわけありません。このキットについては私はわからないので同研究所にお問い合わせ下さいませ。→












■このページの画像等について

ペーパークラフトの型紙は、非営利目的のご利用でしたら、どうぞご利用ください。ただ、使用のさいクレジットの文字は消さないようお願いいたします。色をつけた方がきれいだと思うので、彩色などご自由にどうぞ。

・このページのその他の画像、写真や図は、転載等の使用の際は、次のアカウントまでご連絡ください。→Twitter:@lv1uni 


■使用したレプリカ・図版など

アストロラーベ1
 スペインのヘミスフェリウム社の美しい量産型アストロラーベの1つで、マーテルとティムパンがいっしょになっている簡易型です。たいへん見やすく、使いやすくできています。
 ヘミスフェリウム社は、これの他にも、ティムパンが交換できるタイプ、作図が複雑なユニバーサル型(どの緯度でも使えるもの)、小さなキーチェーン型など、多数のアストロラーベを出している本格派の古天文機器専門メーカーです。しかし取扱い店が日本、アメリカになく、ヨーロッパの取扱店はアジア出荷をしていないため、入手が非常に難しいところです。
アストロラーベ2
 インドのハンドメイド風レプリカで、Astrolab_Antiqueという名の工房による重厚なアンティーク仕上げです。真鍮の板に、シャープなエッジで刻みつける形で文字や線を描いていますが、19世紀以前の本物はこの方法で作られていたと想像されます。 このアストロラーベの海外への販売ルートはオークションのみで、これまた日本で入手しにくい商品です。
アストロラーベ3
 コレクター向け企画販売で知られる米フランクリン・ミント社の商品で、すでに販売終了しています。
 10cmと小さいのですが、ちゃんとした鋳型を使った完成度の高い品で、精密に設計されています。アメリカの有名なアストロラーベ研究家・製作者のノーマン・グリーンが監修したもののようです
謎の円盤(ノクターナル?)
 復刻版の古科学機器を販売しているスタンレー・ロンドンの商品で、現行販売されています。
本物の19世紀のスタンレー・ロンドン社はロンドンにありましたが、ここは、その商標を買ったのか移転したのか不明ですが、アメリカの会社です。現スタンレー・ロンドンは、船舶用のコンパス、日時計、六分儀、船用のブラスの望遠鏡、天球儀と広く販売していますが、実用というよりギフト・インテリア用です。
ノクターナル
 キーチェーンタイプで小型ですが、使いやすいアジャストダイヤルがついた、精巧で美しいノクターナルです。こぐま座のコカブの方位で時刻がわかります。ヘミスフェリウム社の商品です。
日時計つきコンパス
 古科学機器のレプリカを作っているカナダのオーセンティックモデル社の商品です。日時計つきコンパスのレプリカは多くの会社が出していますが、中でもアンティーク仕上げで雰囲気たっぷりの一品です。
船用望遠鏡
 銘文によれば、英国ヴィクトリア女王の科学好きの夫君アルバート卿の光学技師だったチャールズ・チャドバーン氏の作品で、約150年前のものです。マリングッズらしく、対物レンズとアイピースの両方に金属のシャッターがついています。像は150年の時をへて、実用になるほどシャープです。 これだけはレプリカではない本物なのですが、写真の中のグッズ中、最も価格が安かったという事実が、いかにこの手の望遠鏡が多く作られたかを物語っております。
説明図
 型紙を含め、すべて新しく書き下ろしました。レプリカの実物を参考にした他、用語等はJohn Nocke"Understanding The Astrolabe"を参考にしています。アストロラーベの計算式について知りたい方は、James E.Morrisonの"the ASTROLABE",Janusが決定版といえる書です。特に太陽高度-時刻曲線の汎用版についてはこの本しかのってません。

《 文章・写真・図版:出雲晶子 ご連絡→Twitter:@lv1uni  協力:Studio BirdLand 》



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