「月面X」 ゲツメン・エックス
月面に「X」の文字が浮かび上がる!
Copyright by David Haworth www.stargazing.net/david/
撮影:出雲晶子
月の欠けぎわ (Joe Roberts Astrophotographyより) では、地形の影が長く伸びることによって、地形の凹凸がよくわかります。さらに、 太陽光のあたっている面とあたっていない面の境(明暗境界線)をこえて、クレーターのふちのてっぺんだけが 照らされているようすもわかります。こうした月の明暗境界線付近に上の写真のようなものが見えることがあります。
月面の南緯25.5度、東経1.1度の地点が明暗境界線 となる頃に見られるのが、この「月面X」です。望遠鏡で見て、 月の南端から北へ1/3ほどいったところに 隣接する2つ並んだ クレーター、 アリアケンシスとヴェルナー (それぞれ約80km、70kmの直径)が みつかります。その2つ並んだクレーターの、並んだ延長方向に「X」が 見つかります。
ブランキヌス、 ラカイユ、 プールバッハの 3つのクレーター壁によってできた地形です。(カーソルを 写真にあわせると地形名が表示されます)
付近の写真
上が北の写真(中央やや下が「月面X」に見える地形)
対応する地形図NASAの月周回機LRO観測データによる「月面X周囲遊覧飛行」
(表示まで少し時間がかかるかもしれません)
「X]の文字が 暗い月面に浮かび上がって美しく見えるのは1時間程度。その前後もじわじわと見え(消え)ていきます。 したがって、およそ3〜4時間にわたって楽しめます。「月面X」は、 上弦の半月の頃になれば、かならず見られるわけではありません。
1度観察に成功したときから、29.27〜29.82日ほどで、月は再び同じ 上弦の半月になります。
ちょうど29日や30日ではないため、 前回と同じ時間帯では月が見えないことも。上弦の半月が空に昇っていない 時間帯にずれこんだり、昼間の時間帯にずれこんだります。
したがって、「月面X」を観察するのに適した日時はかなり限られてしまいます。
これまでの観測報告に基づき、 月の暗界線の経度を 約358度に設定し、さらに、 ヴェルナークレーター(南緯28.1度、東経3.3度)において太陽高度が1.4度になる頃を設定すると、 日本で今後(2009年5月以降)、夕方〜夜にかけて見る条件が良さそうなのは以下のようになります。
2009年 5月31日(21時前後)、11月24日(19時前後)
2010年 4月21日(19時前後)、12月13日(18時前後)
2011年 2月11日(1時前後)△、10月4日(22時前後)
2012年 1月1日(18時前後)、2月29日(23時半前後)、4月29日(0時半前後)、6月26日(21時半前後)、 8月24日(19時前後)、10月22日(20時半前後)2013年 1月19日(17時半前後)、3月19日(21時半前後)、5月17日(20時半前後)、11月10日(19時半前後)
2014年 4月7日(18時前後)、11月29日(19時前後)
2015年 1月28日(西の空。0時半前後。27日夜遅く(23時くらい)から注目)、 5月26日(西の低空。1時前後)△、 7月23日(西の低空。23時前後)東日本では△、 9月20日(23時半前後。西南西の低空)△、 12月18日(18時前後)
2016年 2月15日(22時前後)、 4月14日(23時前後)、 6月12日(21時半前後)、 8月10日(20時半前後)、 10月8日(22時前後)△
2017年 1月5日(16時半前後)、 3月5日(19時半前後)、 5月3日(19時半前後)、 7月1日(18時半前後)、 8月29日(18時前後)、 10月27日(20時半前後)、 12月26日(0時半前後.西日本では、1〜2時間前に西空低くに見られる地域も)△
2018年 1月24日(昼間14時前後)、 3月24日(昼間16時半前後)、 5月22日(昼間16時半前後)、 7月20日(昼間16時前後)、 9月17日(昼間16時前後)、 11月15日(18時半前後)
2019年 1月13日(22時前後)、 2月12日(昼間12時前後)、 4月12日(昼間13時半前後)、 6月10日(昼間14時前後)、 8月8日(昼間13時半前後)、 10月6日(昼間14時前後)、 12月4日(16時半前後)
2020年2月 1日 (19時半前後)
3月31日 (22時半前後)
4月30日 (昼間11時前後)東天低い
5月29日 (23時半前後)西空低め
6月28日 (昼間11時前後)13時頃でも東天低め
7月27日 (23時前後)西空低い
9月24日 (22時半前後)南西の空低い
11月23日(0時半前後) 西南西の空低く条件悪 △
12月22日(昼間14時前後)
2021年2月19日 (17時半前後)
4月19日 (20時半前後)
6月17日 (21時前後)
8月15日 (20時前後)
10月13日(20時前後)
12月11日(22時前後)
2022年1月10日 (昼間11時半前後)東天低く、条件悪
3月10日 (16時前後)
5月8日 (18時半前後)
7月6日 (18時前後)
9月3日 (17時前後)
11月1日 (16時半前後)
12月30日(19時半前後)
2023年2月28日 (0時半前後) △
3月29日 (昼間14時半前後)
5月27日 (昼間16時前後)
7月25日 (昼間15時前後)
9月22日 (昼間13時前後)
11月20日(昼間14時前後)
2024年1月18日 (18時前後)
3月17日 (23時半前後)
4月16日 (昼間13時前後)
6月14日 (昼間13時半前後)
8月12日 (昼間11時前後)
9月10日 (22時前後) △
11月8日 (22時前後) △
12月8日 (昼間12時前後)
昼間の時間帯でも、澄んだ青空の中の月を拡大すると確認できます。 けっして望遠鏡を太陽に向けないようご注意ください。
1時間で、月面の明暗境界線は経度の0.5度しか変わりません。 (月面で見る太陽の動きは、地球上での太陽の動きの約30倍もゆっくりです)上記の日の夜、予報時刻を目安に、「X」が見えるかどうか観察してみましょう。
見えるはずの日時と、月面のその場所さえ知っていれば、20倍程度の倍率の小型望遠鏡でも 確認することができます。
形が見えるのは数時間程度であること、しかも、見られる機会がかなり限られることから、 繰り返し観測されるということもなく、ほとんど報告されてこなかったのでしょう。
しかし、2004年8月22日21時頃(現地時間)にカナダのアマチュア天文家デイヴィッド・チャップマンさんが、 地域の天体観望会での準備中に、たまたま「月面X」に気づき、そのことをカナダの天文雑誌 SkyNews やインターネットで報告したことから しだいに注目されるようになりました。 (資料)
「月面X」が初めて記録されたのはいつでしょうか?Alter, Dinsmore, (ed)., Lunar Atlas, (New York: Dover, 1968)の 247ページに、 「月面X」が写っている写真がありました。これはアメリカ、リック天文台で1938年5月7日世界時4時47分に撮られたものです。 さらにさかのぼって、写真の黎明期を調べてみましょう。
1840年、世界初の天体写真(月面写真。口径5インチ(13センチ)望遠鏡使用)がニューヨーク大学の化学教授ジョン・ウィリアム・ドレイパーによって 撮影されました。続いての月面写真が撮られたのが、1849年12月18日。ボストンの写真家ジョン・アダムズ・ホイップルが ハーバード大学天文台の口径15インチ(38センチ)を使ったものでした。19世紀後半に入ると、写真の質も良くなり、かなり細部が再現 できるようになっていきました。1865年には、ニューヨークの天文学者で天体写真家でもあるルイス・モーリス・ラザファード (もともとは法律家)が写真用に特別に設計したレンズを用いて、みごとな月面写真を撮影しています。そして、その中の一枚に「月面X」が 写っているのです。それがこちらです。 1865年3月4日に撮影されたものと記されています。計算してみますと、 確かに1865年3月4日19時(現地時間。世界時24時)前後、ニューヨークから「月面X」が見えていたことがわかります。
おそらく、この1865年3月4日の「月面X」が、記録された最古の写真でしょう。 (資料)
関連ページ
月面X(月世界への招待)
月面X(月と星空の探訪)
『月面Xを探せ〜月旅行時代に月を見上げる〜』(中日新聞)
Lunar "X" (ビデオ. 2011年7月7日)
月面ファイヤ〜 (+月面X)( 時間経過と見え方の変化.2014年11月29日)
「月面X」の画像一覧(AstroArts)
7 Days 1 Hour Old Moon (クリックで、主な地形名. 「X]も写っています)Hitchhiker's Guide to Rukl Chart 55
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Twitter: sinus_iridium twilog
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