Illust. by Akiko Izumo / Mars Images: Generated by WinJUPOS
左:2003年から2018年までの地球と火星の接近 右:2018年から2035年までの地球と火星の接近
地球の軌道がほぼ円軌道であるのに対し、火星の軌道は楕円であることに注目しましょう。火星軌道上、太陽に最も接近する「近日点」付近に火星があり、地球と接近すると「火星の大接近」です。2003年には、近日点のすぐそばに火星があるという理想的な大接近が起こりました。火星の軌道上、近日点の180度反対側付近で接近が起こる場合 (2010年、2012年、2027年など)を小接近とよんでいます。中間的な接近を中接近とよぶこともありますが、それぞれ厳密な距離の定義はありません。 2003年の次の大接近が2018年(2016年は中接近)、その次の大接近は2035年。2020年や2033年は準大接近。
火星の大接近は何年周期で繰り返すのでしょうか?
左図のように、「地球と火星が並ぶ」と、地球と火星が接近します。計算を簡単にするため、地球と火星の軌道は円軌道で、同じ平面上をまわっているとしましょう。 火星の基本データから、太陽の周囲を一周する軌道周期(公転周期)を見てみましょう。地球は約365日で、 火星では約687日です。360度÷公転周期(日)で、1日に太陽をまわる角度がでます。1日で地球がまわる角度は0.986度であり、火星は0.524度です。 ということは、地球と火星が並んでから1日経過すると、並んでいた地球と火星は(0.986度マイナス0.524度で)0.462度ずれます。時間がたつにつれ、しだいに地球と火星はずれていき、「ずれ」が360度になるとまた並ぶことになります。 したがって、1度並んでまた並ぶまでの時間は 360度÷0.462度になり、約780日 となります。(これを地球と火星の会合周期(かいごうしゅうき)といいます。 つまり、平均して、2年2カ月ほどの周期で地球と火星が並び、火星の接近を迎えます。
紀元1000年〜紀元3000年までの火星接近表(年代順 / 接近距離順)
「火星と地球が並ぶ」という現象が何度か繰り返すうちに、やがて、 大接近として並んだ軌道上の場所にほぼ戻ってくるはずです。火星と地球の会合周期は約780日(約2年2カ月)です。これを7回くりかえすと、15年ちょうどにちかい! つまり、地球が15周して、大接近として並んだところにだいたいもどってきます。 8回くりかえすと、17年ちょうどにもちかい! したがって、大接近から15年あるいは17年後にまた大接近になるわけです。(グラフ参照) 次回の大接近をさがしてみましょう。2003年の大接近の次回は、2003年+15年=2018年に大接近することがわかります。さらに2018年+17年=2035年にも大接近となります。正確には、15年は、火星と地球の会合周期(779.94日)の7倍よりわずかに長いですし、17年は、会合周期の8倍よりわずかに短いです。したがって、15年周期と17年周期をうまく組み合わせると、もっと会合周期の倍数に近くなるでしょう。つまり、軌道上のほぼ同じ場所で地球と火星が並ぶようになるわけです。
例えば、15年x3+17年x2=79年は、会合周期の37倍にかなり近くな ります。数日の差しかありません。79年x2+15年x2+17年=205年 という周期も会合周期の96倍にとても近いです。 さらに、79年 + 20 5年 = 284年 という周期は、会合周期の133倍に相当近くなります。
軌道上のほぼ同じ場所で火星と地球が並び、2003年8月の大接近と極めてよく似た大接近になるのは284年後の2287年8月29日です。その時の接近距離は2003年よりもさらに約7万km短くなります。さらにその284年後の2571年8月30日にも、2003年時より約5万km近い接近となります。
大接近となる軌道上の位置からおわかりのように、大接近は8月〜9月頃に起こり、小接近は2月〜3月頃に起きるわけです。
「太陽・地球・火星の順に並ぶ」(地球から見て、太陽と反対方向に火星が来る)日時と、火星が地球に最接近する日時は、正しくは一致しません。これは地球と火星(とくに火星)の軌道が円ではなく楕円であるためです。いったん火星と地球が並んでも、さらに火星が太陽に 近づいていく場合には、遅れて地球と最接近しますし、逆に火星が太陽から遠ざかっていく場合は、火星と地球が並ぶ前に最接近を迎えるわけです。 例えば、2001年のときのように、8日ほど違うこともあります。 (地球と火星の軌道運動の動画)
2003年の超大接近2003年8月27日の大接近(約5576万km)は「世紀の大接近」となり、この程度まで接近したのは1924年8月23日(約5578万km)以来であり、今後は2208年8月24日(約5577万km)、あるいは2287年8月29日(約5569万km)までありません。
過去の火星接近距離の変化
2003年8月27日18時51分、火星の中心と地球の中心の間は55758006kmまで接近しました。ベルギーの天文計算家ジャン・メイアスさんは、地球軌道と火星軌道それぞれの離心率の変化を過去・未来それぞれ100万年にわたり計算した結果、火星軌道と地球軌道の最接近距離は今後しだいに短くなる傾向が続き、紀元2万5千年頃には、火星軌道と地球軌道が約5405万kmまで接近することがわかりました。また、2003年8月27日の火星-地球の接近距離は、過去約73000年のなかで最も近づく距離である、という見積りを示しました。(Jean Meeus, "More Mathematical Astronomy Morsels" Willmann-Bell,Inc., 2002)
メイアスさんのそうした内容が書かれた著作が刊行された後、メイアスさんは、イタリア・ナポリ大学の アルド・ヴィタグリアーノさんに、精密な計算を依頼しました。2002年4月、ヴィタグリアーノさんは精密な計算の結果、過去において、2003年の接近距離よりも火星が地球に近づいたのは紀元前57617年9月12日 (時刻は地球時、日付は ユリウス歴)であるという結論を出しています。接近距離は5571万8千kmということです。
この計算結果は、最も信頼できるものとして他の研究者からも評価され、広く引用されるようになりました。
なお、ヴィタグリアーノさんによると、地球と月を2つの天体として区別しないような簡略化した計算をしてしまうと、紀元前57538年に2003年より接近していた、という誤った結果がでることもわかったそうです。
その後、パリ天文台でも精密な 計算が行われました。
天文学で J2000.0 といわれる 地球時2000年1月1.5日 から、 ユリウス年(365.25日) で数えて、59615.267年前である、という結果になったそうです。
紀元前57617年9月12日の ユリウス日 と J2000.0 の ユリウス日の差をとって 356.25日で割れば、J2000.0 の59615.267年前である、という結果になり ますから、 ヴィタグリアーノさんの 計算結果と一致したわけです。
(2003年の超大接近に関する資料: Mars 2003; A Mars Record for the Ages; Mars Makes Closest Approach In Nearly 60,000 Years; Primer on Mars oppositions; The SOLEX page)
2003年〜2035年:接近時の火星の大きさの変化(左図)
2003年の次の大接近は2018年で、2003年の大接近の火星の97%の大きさ、つまりほぼ同じ大きさに見えます。 (天体の見かけの大きさ(角度)を視直径といいます)
接近日(日本時)火星の大きさ(角度の秒) 2003 AUG 27 25.1 2005 OCT 30 20.2 2007 DEC 19 15.9 2010 JAN 28 14.1 2012 MAR 06 13.9 2014 APR 14 15.2 2016 MAY 31 18.6 2018 JUL 31 24.3 2020 OCT 06 22.6 2022 DEC 01 17.2 2025 JAN 12 14.6 2027 FEB 20 13.8 2029 MAR 29 14.5 2031 MAY 12 16.9 2033 JUL 05 22.1 2035 SEP 11 24.6 (参考:火星接近表)2003年9月9日「月と大接近の頃の火星」(撮影:出雲晶子)
そばに見えていた月と比べることで、大接近時の火星の大きさが視覚的にわかります。 みかけの大きさ(視直径)はこのとき、約80倍違っていました。
観測 / 探査 / 解説・データ / 歴史 / SF / 画像 / そのほか
火星観測火星の最新観測報告(月惑星研究会 火星セクション)
ALPO Mars Section
Amateur Astronomy Observers Log: Observations of object "Mars"
マーズレコネサンスオービターの観測による火星の気象レポート
キュリオシティの観測による火星表面の気象レポート
BAA Mars Mapper
今日の火星
Apparent Disk of Solar System Object(U.S. Naval Observatory)
現在の火星データ
火星などの出没時グラフ
2020年の火星の位置・明るさ等のデータ
各惑星までの距離・視直径・明るさ
現在の太陽系惑星配置図・ 各惑星の位置データ・ インタラクティブ・スカイチャート
各惑星の出没南中時など(国立天文台 暦計算室)
Miriade Ephemeris Generator(Observatoire de Paris / CNRS)
現在の火星周辺の星図 (惑星のシンボル)
2020年の火星の明るさ変化
2020年の火星までの距離変化
2020年の火星の視直径変化
日中、大接近時の火星が肉眼で見えたという報告と写真(2018年7月6日)
2018年では、火星が太陽と正反対の方向に来る7月末頃になると、太陽が昇る頃に火星が沈んでしまうため、 7月上旬か中旬が、日の出直後の火星を見るチャンス。あるいは、8月中旬か下旬の日没直前もチャンスです。 日の出直後の方が、明け方の火星をそのまま見ながら追跡できる利点があります。
火星観察のための無料専用アプリ「Mars Book(マーズブック)」(ビクセン)
MARS 火星シミュレーション(パソコンソフト)
火星の地名を覚えよう!(火星のページ)JPL Solar System Simulator(Show me Mars as seen from Earth に設定し、時刻GMTを日本時間-9時)
Mars: Which Side Is Visible?
Apparent Disk of Solar System Object(U.S. Naval Observatory)
火星および大シルチスの出没時刻の計算
2018年の火星の位置変化(いて座〜やぎ座) (火星の逆行運動の図解)
2018年:星座を背景とした火星の動きのアニメーション(火星の大きさは誇張)
Dates of the oppositions of Mars from 1950 to 2099
The Mars Apparition of 2017-2019
Mars Oppositions: 2012 to 2027
The Martian Year and Seasons
Mars Through The Telescope
Mars Viewer 2.9
Ephemeris Generator
Time on Mars
Earth Date to Martian Solar Longitude Conversion
Martian Seasons and Solar Longitude
Mars' Calendar
Mars Clock
MARS by Percival Lowell, 1895
MARS by Percival Lowell - Illustrations
An Observational History of Mars
2001年の火星に発生した火星全体に広がる規模の大砂嵐
2001年の火星に発生した火星全体に広がる規模の大砂嵐2007年の火星に発生した火星全体に広がる規模の大砂嵐
火星探査火星探査機着陸地点(火星地図は地形の高低を示したもの)
火星探査機着陸地点
NASAの火星探査機着陸地点
Missions to Mars
Chronology of Mars Exploration
Viking Lander High Resolution Mosaics
Viking Lander Stereo Mosaics
Viking: Mission to Mars
日本の火星探査機:のぞみ
日本の宇宙開発の歴史:のぞみ
日本の火星探査計画:衛星のサンプルリターンをめざすMMX
計画されている惑星探査機
MELOS火星複合探査の科学検討
2021年10月1日現在活動中の火星探査機(8機の周回機+2機の着陸機+2機の探査車+1機のヘリコプター)
火星表面の探査車(ローバー)2機:
キュリオシティ(米)
2018年5月30日に観測された砂嵐が惑星規模になりオポチュニティの太陽電池発電量が低下。
2018年6月10日以降応答ナシ (探査計画終了発表は2019年2月)
天問一号(ティエンウェン・イーハオ.中国)の探査車(チューロン)
着陸機2機:
軌道周回機8機:
オデッセイ(米)
マーズ・エクスプレス(欧)
MRO(米)
メイヴン(米)
MOM(インド)
エクソマーズTGO(欧・露)
アルアマル(Hope アラブ首長国連邦)
天問一号(ティエンウェン・イーハオ.中国)の周回機
火星に向かった最近の3機:
アルアマル(Hope.周回機.アラブ首長国連邦)
2020年7月20日打ち上げ(H-IIAロケットによる).2021年2月10日に火星周回軌道に入りました。天問一号(ティエンウェン・イーハオ.周回機・着陸機・探査車.中国)
2020年7月23日打ち上げ.2021年2月10日に火星周回軌道に入りました。5月15日には周回機から着陸機+探査車が分離し、火星に着陸。
探査車には『祝融(祝融は中国神話の火の神。チューロン)』という名前が付けられ、5月22日に着陸機から表面に降りました。
パーサヴィアランス(探査車+火星ヘリコプター(インジェニュイティ).米)
2020年7月30日打ち上げ.2021年2月19日に火星に着陸しました。
火星接近の解説・火星の一般情報・データ火星最接近2020(国立天文台)
2020年10月6日地球最接近 火星(AstroArts)
2020 火星観測週間(日本惑星協会)The Nine Planets - Mars
Primer on Mars oppositions
Views of the Solar System - Mars Introduction
Mars
Planetary Orbital Elements
Planets: Physical Data
Planetary Fact Sheet - Ratio to Earth Values
Mars Fact Sheet
火星地図
Maps & Globes Gallery: Mars
Mars Digital Image Mosaic Globe
Images Showing Locations of Named Features
MARS for GOOGLE EARTH
紀元1000年〜紀元3000年までの火星接近表(年代順/接近距離順)
火星の衝・接近時の表
Oppositions of Mars 1950-2099
火星探査・観測の歴史Is Mars Habitable? (1907)
ON MARS: Exploration of the Red Planet 1958-1978
VIKING ORBITER: VIEWS OF MARS
THE MARTIAN LANDSCAPE
1924年の大接近時、 アメリカ海軍長官がすべての海軍通信所宛てに、火星からの通信が受信されるか監視せよ、と打電オランダのクリスティアーン・ホイヘンスが1659年11〜12月に、 口径7cm、87倍で観測した火星のスケッチ(4番目の図も1659年のはず)
Mars Chronology: Renaissance to the Space Age
Mars Timeline of Discovery:1570BC thru 1799
Mars Timeline of Discovery:1800 thru 1962
An Illustrated History of Mars ExplorationHuman Mars Timeline: 1500 to 1700
Human Mars Timeline: 1700 to 1900
Human Mars Timeline: 1900 to The Space Age
SF宇宙戦争 (H・G・ウェルズ)
The War of the Worlds
Radio's War of the Worlds Broadcast (1938)/Script
The New York Times - Radio Listeners in Panic, Taking War Drama as Fact
1938年のラジオドラマ『宇宙戦争』を取り上げた番組の紹介
エンリケ・アルヴィム・コヘーアによる『宇宙戦争』の挿絵
ブラジル出身でベルギーで活躍した画家 コヘーアによる挿絵の数々に、原作者ウェルズも感銘を受けたといいます。H. G. Wells biography pictures portrait books online forum
The War of the Worlds: Movie Trailer
火星人襲来!パニックはここから始まった
ハドリー・キャントリル『火星からの侵入』
火星からの侵略〜パニックの心理学的研究
「火星からの侵入:パニックの社会心理学」再考
星間戦争(The War of the Worlds)
火星のプリンセス (バロウズ作)
火星のプリンセスA Princess of Mars by Edgar Rice Burroughs
“A Princess of Mars,” first in the John Carter series
画像・写真集火星写真集(spaceweather.com)
地球をまわるハッブル・スペーステレスコープがとらえた2003年大接近の火星
すばる望遠鏡がとらえた2003年接近時の火星
国際宇宙ステーションの火星面通過 (2020年9月14日21時15分47秒(現地時05時15分47秒)カリフォルニア州サンディエゴから)
2003年夏・火星大接近 投稿画像ギャラリー(AstroArts)
Images of the Mars in 2003
2003年の火星
火星の画像ギャラリー(地形の起伏が2倍程度強調されています)
赤青3Dメガネで見る周回軌道からの火星表面や 衛星フォボスの立体画像
赤青3Dメガネで見る火星3D画像集
A Virtual Tour of Mars
NSSDC Photo Gallery Mars
Mars Thumbnails
Mars' Satellite Thumbnails
マーズ・エクスプレスによる火星画像(ピンで示した場所をクリック)
アラスカ、ポーティッジ湖に映る火星(2003年8月13日)
そのほか火星儀を作ってみよう!
火星の衛星: フォボスとダイモス(デイモス)
Natural Satellite Discovery Data
Natural Satellite Physical Parameters
Satellites of Mars: Mean orbital elements
2003年8月22日の火星の衛星
口径25cm以上の望遠鏡の場合、明るい火星を視野の外に出すような工夫をすれば、 火星の衛星が見えるかもしれません。位置はこちらのページでチェック。
Show me Mars as sen from Earth にして、観測日時(GMT=日本時マイナス9時) を合わせます。火星の大きさは10パーセントにします。(2003年7月31日15時GMTの例. 以前はこの例のように、satellite orbitsという衛星軌道の表示オプションがありました)
1時間たつとけっこう位置がかわります。
比較的見つけやすいのは、まぶしい火星から衛星が離れて見えるときで、フォボスは火星の縁から火星1個分、ダイモスは火星3個分ほど離れたところに見えます。 フォボスのほうがダイモスより大きいので1等級ほど明るいのですが、 (それでも2003年の大接近時で10.5等)なにぶん明るい火星のそばなの で、見つけるのはダイモスよりもむずかしくなります。 火星はフォボスの242000倍、ダイモスの741000倍も明るいため、火星の明るさがじゃまで衛星を観測することが困難です。(関連資料:MULTISAT Ephemerides of planets and natural satellites/ Search for the times of maximum elongations of satellites: Satellites of Mars)